スマートなインターンシップ

経済的理由の他にも、原因は考えられる。 たとえば女性の社会進出が出生率低下に多少なりとも影響を与えていることは間違いない。
子育てより仕事を選ぶ女性は少なくないだろうし、たとえ育児と仕事を両立させたいと願ったとしても、それを受容するだけの社会システムはまだ整備されていない。 日本的雇用システムを成立させた三番目の要件は、「社会全体の経済水準がきわめて低かったこと」だった。
この要件がすでに失われていることは、ほとんどの日本人が実感しているはずである。 急激な経済成長によって、日本が経済的に豊かな国になったことは明らかだろう。
もちろん、世界一高い物価や、ウサギ小屋と称される狭い住居、それに欧米とくらべて休暇が少ないことなどを考えれば、自分が本当に豊かな生活を送っていると感じている日本人がどれだけいるか疑問ではある。 〃一億総中流意識″という言葉が示すとおり、庶民の本音が「決して十分に豊かではないかもしれないが貧しくはない」というところにあるのは間違いない。
この結果、労働者が仕事に求める目的が変化してきた。 このように、出生率の低下は教育問題、住宅問題、福祉問題など多角的に取り組まなければならないテーマとなっている。
政府はもちろん、企業にとっても自らの存続に関わる問題だけに、何らかの対応が迫られるはずだ。 今後の対応がどんなかたちになるにせよ、すでに減ってしまった人口については取り返しがつかない。

人口動態表からすると一九九四年から少なくとも二○年間は、若年労働者が減少する傾向が続くことは厳然たる事実なのだ。 これによって、年功序列というシステムを維持することは組織的に見て物理的に不可能になったのである。
それ以降、実質的にはかなり豊かになってきたものの、戦後四○年間にわたって日本人に刷り込まれてきた〃欠乏の強迫観念″ともいうべき呪縛は、簡単には解けなかった。 そのため一九八○年代前半までは、「少しでも多くの金を得るために、少しでも多く働く」状態を続けてきたのである。
まだ「路頭に迷う」リスクを多くの人が亡霊のように恐れていたわけだ。 そんな状況に変化が起きたのは、一人当たりGNPが一万ドルを越えた一九八四年頃のことである。
社会全体の経済水準が上がったことが実感されるようになり、職を失って路頭に迷うことを心配する人はほとんどいなくなった。 とりあえず人並みの生活を送るための賃金なら、どんな仕事をしても手に入れることができる世の中だ。
そう考えると、ただ生活給を得るだけのために働くのは虚しく感じられる。 何をしても食えるのなら、いまの仕事に執着する必要はない。
生活に追われていやいや働くより、自分のやりたい仕事に就いたほうがいい、というわけだ。 そこで、「仕事を楽しみたい」とか「仕事を通じて人間的に成長したい」という具合に、仕事を自己実現の手段として位置づける人が増えてきたのである。
そうなると、一つの企業にしがみつく必然性はない。 たとえ給料が少し下がったとしても、一九七○年代までの日本はまだ多くの人々が貧しさを抱えていたため、労働者にとって最大の目的は生活給を得ることだった。

だからこそ会社にしがみつくことのできる終身雇用制が求められたのである。 り楽しめる仕事、より充実感を得られる仕事、より自己実現を図れる仕事を求めることになる。
もう昔のように雇用してもらうこと自体に労働者がありがたみを感じることはない。 要するに、労働者側には終身雇用を維持する必然性がほとんどなくなってしまったのである。
ここまで、右肩上がりの経済成長、無尽蔵の若年労働者、低い経済水準と、三つの要件がいずれも九○年代までに消失していることを指摘してきた。 これだけでも日本的雇用システムを崩壊させるのに十分な変化だといえるだろう。
ところが、三種の神器を葬り去る要因はこれだけではない。 最後に決定的なダメージを与えるのは、ジョブタイプの転換という要素である。
ように、従来の企業では熟練の度合いによって生産性に若干の差異が生じるマニュアルレーバーが業務の中心だったため、年功序列がそれなりの合理性をもって機能していた。 一九八○年代のエレクトロニクス技術の進歩と、それに伴う省力化に向けた積極的な設備投資が、このマニュアルレーバーを人間の手から奪い去ってしまったのである。
誰にでもできる、誰がやっても同じようにしかできない性質の仕事は、猛烈な勢いでコンピュータとロボットに置換されていった。 具体的な数字で見ると、その転換がいかに驚くべきスピードで進行したかがよくわかる。
一九八○年におけるパソコンの国内出荷台数は一○万台弱、産業用ロボットの稼動台数は七万台程度でしかなかったのが、一九九○年にはパソコンが二○○万台強、ロボットが四○万台弱とそれぞれ二○倍、五・五倍にまで増大したのだ。 さらにこの間にはパソコンにしてもロボットにしても大幅な性能の向上があったわけであるから、そのインパクトは台数の増加分以上になるのは間違いない。
経理の伝票計算などで考えると、パソコンの導入で、三○人でコツコツこなしていた作業が五人程度でできるようになるケースは珍しくないし、組み立て用ロボットは一台で人間三○人分以上の働きをするものも多い。 従ってこの一○年間に導入されたパソコンやロボットによって、少なくとも一○○○万人、多く見積もれば二○○○万人ものマニュァルレーバー職が失われたと考えられるのである。
少し前に「失業率二・八%」という数字が出てマスコミでも話題になっていたが、それでも約一七○万人が職を失っているにすぎない。 その一○倍もの仕事が、ジョブタイプの転換によって消滅してしまったのである。

この事実と、この事実の向こう側にあるイシュー(課題)を抜きに今後の企業経営を考えることは、まったく意味をなさない。 では、日本企業のジョブタイプはマニュアルレーバーから何に転換されようとしているのか。
コンピュータとロボットに仕事を奪われた人間は、どんなタイプの仕事をこなせば良いのだろう当然、コンピュータやロボットにできないタイプの仕事ということになる。 つまり、非定型な判断と柔軟な対応、或いは人間らしい豊かな感受性が要求される業務(ヒューマンワーク)こそ、人間がなさなければならない仕事となったのである。
マニュァルレーバーとヒューマンワークの根本的な違いは、前者は個人個人の業績の差が小さいのに対して、後者は個人がそれぞれ備えている素質・適性・能力などによって業績の格差が極めて大きいということにある。 要するにヒューマンワークは、誰でも同じようにできる仕事では決してなく、誰がどの仕事をするかによってアウトプットが極端に違ってくるのである。
したがって、勤続年数を基準にして昇給や昇進が決まる年功序列とは、まったく適合しない。 もちろん、マニュァルレーバーの時代にも若い従業員がベテランを上回る生産性を上げるという逆転現象はあった。
ただ、その差は一○○点対一五○点という程度の非常に小さなものだったために、それほど年功賃金とのあいだで岨鮪をきたさなかったのである。 ところがヒューマンワークになると、個人による生産性の差はきわめて大きなものになる。

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